オーストリアの偉人

ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの生涯・人柄・名言に学ぶ!絶望を生き抜いた哲学者

begem0tさん(男性・20代後半)
begem0tさん(男性・20代後半)
20世紀最大の哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインを、中高生・学生さん向けに解説します!

「ただきみ自身を改善しなさい。それがきみが世界を改善するためにできるすべてだ。」

20世紀最大の哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは多くの学生たちにこう語った。

ウィトゲンシュタインは「現代の優れた知性の持ち主は、一人の例外もなくこの思想家の影響下にある。」ほどの影響を後世に与えた。

鬱・自殺衝動と闘いながら、他のすべてを犠牲にして聖者のように哲学の問題と向き合い続けた偉大な思想家である。

一切の嘘や虚栄を許さず、自分にも他人にも容赦なく妥協を許さなかった。すぐに怒り出す。気に食わない相手とは付き合わなかった。絶交した友人も少なくない。

衣食住には興味を示さず、相続した莫大な財産も寄付してしまった。

自分の周囲で何が起ころうともそれは自分にとって本質的に無関係だとする宗教観に心を打たれ、自身の哲学的諸問題に命をかけて取り組んだ。死に場所を求めて戦場へ向かった。

眠って二度と目を覚まさないのが一番いい、そう語るほど追い詰められながら絶対に諦めないのは、哲学的考察と生きることがイコールになっているからだろう。

毎日自殺を考えるほど苦しい人生だったはずだが、最期に「僕の人生はすばらしかった」と言い残してこの世を去った。全てを犠牲にしてでも天職を全うしたからこそ出てくる言葉だ。

常軌を逸した天才であることには間違いない。常人には真似出来ない生き方だ。しかし、死後も後世の人々を魅了し影響を与え続けるウィトゲンシュタインをご紹介したい。

ウィトゲンシュタインの生涯

20世紀最大の哲学者。

「現代の優れた知性の持ち主は、一人の例外もなくこの思想家の影響下にある。」(立花隆/佐藤優『ぼくらの頭脳の鍛え方』)

1889年4月26日、オーストリア・ウィーンの高級住宅街アレーガッセに生まれた。

1903年にリンツ高等実科学校へ入学したが、周囲に馴染めず、授業も休みがちのためか成績は中の下、追試を受けざるをえないほどだった。

ベルリン・シャルロッテンブルク工科大学へ進学後、プロペラの研究のために数学の問題に取り組まざるを得なくなり1911年にフレーゲを訪ねたところ、『数学原理』を出版したばかりのバートランド・ラッセルに合うよう勧められる。

ラッセルに高く評価されるが、ウィトゲンシュタインは非常に扱いにくい学生だったと語る。

「かれは総じて扱いやすい人間ではなかった。

かれは真夜中にわたしの室にやってくるのを常とし、何時間にもわたって、檻につながれたトラのように室の中を行ったり来たりするのだった。

室にやってくるなり、かれは、<室を出たら自殺するつもりだ>というのである。

だから、眠くなるにもかかわらず、わたしはかれを追い出したくなかった。

そのようなある晩のこと、わたしはかれに、<ウィトゲンシュタイン、きみは論理のことを考えているのか、それとも自分の罪のことを考えているのか>と尋ねた。

<両方です>とかれはいったなり、再び沈黙に戻るのだった。」(ラッセル『哲学者と愚者』)

1914年、オーストリア=ハンガリー帝国がセルビアに宣戦布告すると、ウィトゲンシュタインはすぐに志願し、最も危険な最前線の任務を希望し続けた。

それは死に場所を求めてのことだった。

従軍中も平時と同様に哲学的考察を書き続け、1922年、箇条書きのような独特の文体の哲学書『論理哲学論考』が出版された。

これはウィトゲンシュタインが生前唯一刊行した書物である。

全ての哲学の問題は『論理哲学論考』によって解決したためこれ以上哲学に関わる意味はないと考え、小学校の教師になる。

しかし生徒の嘘や虚栄を許さなかったために体罰を繰り返して辞職することになる。

その後は庭師、建築・彫刻といった寄り道を経て、哲学の道へ復帰し、ケンブリッジ大学で教授となる。

しかし教授職と哲学との両立が上手く行かないことから、教授職を辞職する。

一人で考える時間が必要だったのだ。

アイルランドにこもり、ウィーンやケンブリッジ、アメリカを放浪しつつ、哲学的考察を続け、1951年に62歳で亡くなった。

死後、『哲学探究』等の遺構が弟子たちの手により出版された。

ウィトゲンシュタインの人柄

ひと目見ただけで天才だと周囲に思わせるカリスマ性を備えていた。

学生たちは無意識のうちにウィトゲンシュタインのイントネーションや身振り手振りを真似していた。

2時間会って話しただけで「もう二度とウィトゲンシュタインには会いたくない」と思うが数日後には会いたくなる。

どもりがちで言葉はスラスラ出てこないが、全力を振り絞って思考を巡らせ、手は空中をつかむ動作を繰り返す。

周囲は緊張に包まれ、沈黙の中で次の言葉を待つ。

部屋は一切の飾り気がなく、格好はネクタイを締めず背広も着ない、いつも同じものが出てくれればあとは何を食おうが構わないと言い放ち、非常に質素な生活を好んだ。

常に全力で哲学の問題について思案しており、考えが進まない自分に苛立ち続けた。

この姿勢はウィトゲンシュタインの宗教観が背景にある。

21歳のときに『ディー・クロイツェルシャイバー』という芝居を見た際、登場人物が「世界の中で何事が起ころうと、自分には悪いことなど起こりえようはずがない——自分は運命や周囲の事情とは無関係だ」との態度を表したことから、今まで軽蔑していた宗教に対する態度が変わったのだという。

こうして、自分と周囲は本質的に無関係であり、自身の為すべきことをいついかなる事情でも遂行すべきであるという態度が生まれた。

姉をして「不幸な聖人よりも幸福な俗人を弟に持ちたい!と何遍思ったことか。」と言わしめた。

教授としてのウィトゲンシュタインは、一切の妥協を許さず、学生が反論すると激高しその理由を追求し続けるなど非常に厳しいものだった。

分からない、あるいは、思考がまとまっていないのに、回答したり反論することは決して許さなかった。

この態度は小学校の教師時代の頃から変わっていない。

授業に遅れるとウィトゲンシュタインに睨みつけられるため、教室から引き返す学生が続出した。

ドアの音や椅子をガタガタさせる音で思考が邪魔されるのが耐えられないからだ。

学生の一人、ノーマン・マルコムはこう描写している。(ノーマン・マルコム『ウィトゲンシュタイン 天才哲学者の思い出』)

「目は一点をじっと凝視し、顔は生気にあふれるばかりの真剣さと、精神集中の中で、最高の知性が力をいっぱいにふりしぼっているのを、目の前に見る思いで、誰もがウィトゲンシュタインを見つめるのだった。」

「こわい先生だった。気が短くて、すぐ怒り出す。」

「思考に集中して、両手に力を入れて相手に語りかけるようにしている身ぶりに、出席者はみんな緊張と期待の中に沈黙をつづける。」

「その人柄から生み出される雰囲気は人を威圧する——というより、人を畏服させる力を持っていた。」

ウィトゲンシュタインの魅力

一切の妥協を許さず、常に鬱と自殺衝動と闘いながら使命としか言いようのない情熱で哲学の問題に全精力を向けた生き方。

考えがまとまらないことに罪悪感を抱き、弱音を吐きながらも、執念をもって諦めない精神。

苦しんでもがきながらも全力で自分自身の人生を生き抜いたこと。

自分自身はおろか他人にも妥協を許さなかったため自身も他人も傷つけて多くの友人を失い、それでもなお全力で使命を全うしたところ。

人生の最期にウィトゲンシュタインは「僕の人生はすばらしかった、とみんなに言ってください」と言い、死ぬ時に後悔しない生き方を貫いたところ。

常に自殺を考えるほど苦しくとも、死ぬ時に後悔しない生き方をストイックに貫き続けたその姿勢。

ウィトゲンシュタインの名言

ただきみ自身を改善しなさい。それがきみが世界を改善するためにできるすべてだ。

きみ自身がきみの世界だ。きみの生き方で、きみの世界はいくらでもよくなっていく。

君が目をあけて観察すれば、また、深く考えれば考えるだけ、見るもの聞くものから沢山のことを引き出せるはずだ。もし君があきあきしているなら、それは君の頭の消化力が減退していることになる。

世界の意義は世界の外になければならない。世界の中ではすべてはあるようにあり、すべては起こるように起こる。世界の中には価値は存在しない。かりにあったとしても、それはいささかも価値の名に値するものではない。

たとえ可能な科学の問いがすべて答えられたとしても、生の問題は依然としてまったく手つかずのまま残されるだろう。これがわれわれの直感である。もちろん、そのときはもはや問われるべき何も残されてはいない。そしてまさにそれが答えなのである。

およそ語られうることは明晰に語られうる。そして論じえないことについては人は沈黙せねばならない。

まとめ:ウィトゲンシュタインの哲学を現代に

ウィトゲンシュタインにとって哲学的考察は生きることそのものだったに違いない。

一切の妥協を許さず全力で考え抜いて生き抜いた姿勢は真似できるものではない。

しかし、自分自身を改善する、ただ情報を受け流すだけでなく一歩だけ踏み込んで考えてみる、そうした姿勢ならばほんの少しは真似できるはずだ。

ウィトゲンシュタインの過酷な人生から「目を開けて観察」して何かを受け取ってほしい。

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